ここ最近、田舎暮らしに憧れるひとが右肩上がりに増え続けているようです。
ふるさと回帰支援センターへの問い合わせ数を見ると、去年大幅に増え、その数は2万件を超えています。
さらに、年齢別に見ると20代、30代の利用者が増えていることがわかります。
都会で暮らしている若者は、だんだん田舎暮らしに興味や憧れを抱くようになっているのです。
仕事や収入が何とかなるなら、実際に行ってみたいという人も多いのではないでしょうか。
では、なぜ若者は都会の便利な暮らしよりも、田舎に魅力を感じるようになってきたのでしょうか。
今回はひとつの本を案内役に、田舎にある魅力を紐解いていければと思います。
手仕事の日本 柳宗悦著
1.田舎には、美しい自然がある
日本は美しい自然に恵まれた国として世界でも名があります。
四季の美を歌った詩人や、花鳥の美を描いた画家が、どんなに多いことでしょう。
柳はこの本の中で様々な日本の手仕事を紹介していますが、そのすべてのものの基礎は自然であるといっています。何ものも自然を離れては存在することができないのです。
雨に濡れず、夏は涼しく、冬は暖かく、生き物のいない生活をおくる都会では、柳に「すべての基礎」と言わしめた自然を身近に感じることはあまりありません。
高度経済成長期においては、もしかしたらそれでよかったのかもしれません。
しかし、経済的に豊かになり、暮らしの水準が上がってくると、物足りなさを感じるようになってきたのです。
段々人間の智慧が進むにつれて、自然への尊敬は、もっと理由のはっきりしたものへと進みました。
科学者たちは自然がどんなに深いものなのかをよく知っている人たちであります。
凡ての学問はその不思議さの泉を訪ねるためだともいえるでありましょう。
ですが科学者ばかりではありません。
藝術家も自然の美しさの終りないことをよく知っている人たちであります。
科学者や芸術家ばかりではなく、成熟した社会で育った若者がその感性に任せて、あるいはさらなる人間としての成熟を求めて、自然とつながった田舎暮らしに憧れるのは、当然の流れなのかもしれません。
2.田舎には、二千余年の歴史がある
私たちは日本の文化の大きな基礎が、日本の自然であることを見ました。
何ものもこの自然を離れては存在することが出来ません。
しかしもう一つ他に大きな基礎をなしているものがあります。
それは一国の固有な歴史であります。
歴史とは何なのか、柳は本書の中でこう表現しています。
それはこの地上における人間の生活の出来事であります。
それが積み重なって今日の生活を成しているのであります。
ですからどんな現在も、過去を背負うているといわねばなりません。
吾々は突然この地上に現れたのではなく、それは長い時の流れと、多くの人々の力とによって徐々に今日を得たのであります。
どんなものも歴史的なつながりがあって存在しています。日本は二千余年の齢を重ね、今日の姿になっているのです。
しかし、近代の急激な発展によってできた都会の生活では、なかなか歴史を身近に感じることができません。
一方、昔ながらの生活をおくる田舎ではその歴史を色濃く感じることができるのです。
3.田舎には、手仕事がある
固有な日本の姿を求めるなら、どうしても手仕事を顧みねばなりません。
もしこの力が衰えたら、日本人は特色の乏しい暮らしをしなければならなくなるでしょう。
手仕事こそは日本を守っている大きな力の一つなのであります。
日本の美しい自然と人間との交わりから、様々な品物が生み出されました。数少なくなってしまったとはいえ、今なお日本の田舎に残る手仕事を通して、日本とは何か、日本人とは何かを探ることができます。
機械は世界のものを共通にしてしまう傾きがあります。
それに残念なことに、機械はとかく利得のために用いられるので、出来る品物が粗末になりがちであります。
それに人間が機械に使われてしまうためか、働く人からとかく悦びを奪ってしまいます。
手仕事は、本来の働く(=傍を楽にする)意味をも教えてくれるのです。
真に国民的な郷土的な性質を持つものは、お互いに形こそ違え、その内側には一つに触れ合うもののあるのを感じます。
この意味で真に民族的なものは、お互いに近い兄弟だともいえるでありましょう。
世界は一つに結ばれているものだということを、かえって固有のものから学びます。
柳は日本各地に残る手仕事を訪ねる旅から、平和の思想をも私たちに伝えてくれています。
自然と歴史の中に自らの命を置くことで、アイデンティティを確立し、世界の多様性にアクセスできるようになるのです。
いかがでしたか?
今回は、暮らしの中に「用の美」を見出し、民藝運動を起こした柳宗悦の言葉を借りて、田舎暮らしの魅力をお伝えさせていただきました。
この本には、日本各地の素晴らしい手仕事がたくさん紹介されていますので、ぜひお手に取ってみてくださいね。
手仕事の日本 柳宗悦著